東京高等裁判所 平成11年(ネ)4140号 判決 2000年9月21日
控訴人兼附帯被控訴人(第1審被告)
乙野一郎
右訴訟代理人弁護士
古川史高
同
岩田修
被控訴人兼附帯控訴人(第1審原告)
乙川春子
右訴訟代理人弁護士
加城千波
主文
一 控訴及び附帯控訴に基づき、原判決主文第一ないし第四項を次のとおり変更する。
二 第1審被告は、第1審原告に対し、金1484万1850円及びこれに対する平成10年3月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
三 第1審被告は、第1審原告に対し、金18万5383円及びこれに対する平成12年2月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
四 第1審被告は、第1審原告に対し、平成10年3月1日から毎月末日限り1か月90万7800円の割合による金員を支払え。
五 第1審原告のその余の請求を棄却する。
六 訴訟費用は第1、2審を通じこれを3分し、その1を第1審原告の、その余を第1審被告の負担とする。
七 この判決の主文第二項から第四項までは、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 第1審被告
1 原判決を取り消す。
2 第1審原告の請求を棄却する。
3 附帯控訴棄却
二 第1審原告
1 控訴棄却
2 附帯控訴として、当審における請求の拡張
第1審被告は、第1審原告に対し、217万2900円及びこれに対する平成12年2月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 附帯控訴として、当審における予備的請求
第1審被告は、第1審原告に対し、平成10年3月1日以降毎月末日限り1か月100万円の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 本件は、第1審原告が、原判決別紙物件目録記載の土地(本件土地)の利用関係を使用貸借契約に基づくものであるとした上、第1審被告には用法違反及び信頼関係の破壊があったとして、第1審被告に対し、右契約を解除する旨の意思表示をして、本件土地上の原判決別紙物件目録記載の建物(本件建物)を収去し、本件土地を明け渡すこと及び平成10年10月9日から右の明渡し済みまで1か月70万7066円の割合による賃料相当損害金の支払を求めるとともに、必要費償還請求として平成8年度分の固定資産税等104万1850円、第1審原告に支払義務のある生計維持に係る費用1380万円(平成6年5月から平成10年2月分まで)の合計1484万1850円とこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は、賃料相当損害金の請求の一部を除くほか第1審原告の請求の全てを認容したので、これに対して第1審被告が不服を申し立てた。
第1審原告は、当審において附帯控訴により、請求を拡張し、第1審被告に対し、必要費償還請求として、平成10年度分の固定資産税等111万2300円と平成11年度分の固定資産税等106万0600円の合計217万2900円の支払を求め、また、本件土地の明渡し等が認められない場合の予備的請求として、今後も本件土地を貸し続けるのであれば、平成10年3月1日以降1か月100万円の割合による地代を支払うべきであるとして、その支払を求めた。
二 右のほかの事案の概要は、次のとおり付加するほか、原判決の第2記載のとおりであるから、これを引用する。
(第1審被告の当審における主張)
1 仮に第1審被告が乙川夏子(夏子)に対して生計維持のため月額30万円の支払義務を負っていたとしても、それはあくまで、夏子の生活が苦しい場合に生活費の援助を行うというもので、夏子限りの一身専属のものである。
2 本件建物の4階部分には第1審原告が居住しているのであるから、第1審原告も、本件土地の公租公課の4分の1を負担すべきである。
3 原判決は、第1審原告に毎月十数万円の金員の支払すらしないなどとして、信頼関係の破壊があった旨の判断をした。しかし、第1審被告は第1審原告になんらの支払義務を負っていないし、本件紛争は、夏子が一方的に別件訴訟を提起して妨害行為に及んだために生じたものであるから、第1審被告に信頼関係の破壊などない。
(第1審原告の当審における主張)
1 第1審原告は、平成8年度分の固定資産税等104万1850円のほか、平成10年度分の固定資産税等111万2300円と平成11年度分の固定資産税等106万0600円を第1審被告に替わって支払った。そこで、必要費として償還請求する。
2 使用貸借契約の終了を理由とする建物収去土地明渡しの請求が認められないとしても、今後も土地を貸し続けるのであれば、地代をもらわなければならない。平成10年3月1日以降の地代は、月額100万円が相当である。
第三 当裁判所の判断
一 事実の経過
<証拠略>及び弁論の全趣旨によれば、本件における基本的な事実の経過として、次の各事実が認められる。
1 夏子(明治31年11月25日生)は、第1審被告(昭和12年3月9日生)の祖父の妹に当たり、第1審原告(昭和8年10月21日生)は、夏子の夫であった亡乙川秋男(秋男、昭和30年7月死亡)の姪に当たる。
2 夏子は、昭和12年ころ、本件土地を取得し、戦後、右土地上に木造2階建ての建物(旧建物)を建築し、夫の秋男が死亡した後は、旧建物において、茶道等を教授したり、旧建物の2階を賃貸するなどしてその生計を維持していた。
3 夏子には子がなかったため、夏子は、昭和31年2月に乙山二郎と養子縁組をしたが、同40年6月には協議離縁し、同55年5月に丙野冬子と養子縁組したが、これも同58年2月に協議離縁となった。この間、夏子は、昭和57年12月8日、衆議員議員を務めたことがあり、創価学会の幹部でもあった第1審被告に対し、本件土地及び旧建物の共有持分各2分の1を遺贈する旨の公正証書遺言をした。
4 昭和58年ころ、夏子は、第1審被告が訪れた際、第1審被告に対し、「隣に地下2階も掘るようなビルが建つそうだ。」と話したところ、第1審被告は、旧建物を取り壊して本件土地上にビルディングを建てることを強く勧めた。その後、第1審被告は、夏子に対し、本件土地を担保に第1審被告が融資を受ければ、ビルディングが建築できる旨話した。その際、第1審被告は、夏子に対し、そのビルディングの4階部分を茶室を備えた夏子の住居とし、他を賃貸すれば、賃料収入が上がるので、そのうちから1か月30万円程度を第1審被告に渡すことができる旨、また、夏子の生活の面倒も見る旨説明した。夏子は、第1審被告の右の言葉を信じて、本件土地上にビルディングを建築して賃料収入が取得できれば、心配なく暮らせるようになると考え、旧建物を建て替えることを決意し、その段取りや建築に関する諸手続等の一切を第1審被告に委任した。
5 こうして、第1審被告は、本件土地上にビルディングを建築する計画を進め、新たに建築する建物(本件建物)の本件土地に対する利用権をどのようにしたらよいかを弁護士に相談したところ、税金等の問題を考慮すると、使用貸借契約とするのがよい旨助言された。そこで、第1審被告は、本件土地を本件建物の敷地として利用するについては、その形式を使用貸借とする旨説明し、昭和58年3月17日ころ、本件土地につき、その使用の目的を「本件土地上に第1審被告が建築予定の鉄筋コンクリート造地上4階建の仮称清雅ビルの所有」とし、期間を「右ビルの朽廃に至るまで」とする使用貸借契約書(甲1)を作成した。夏子は、第1審被告に言われるままに右契約書等の所定欄に署名押印をした。
その後、昭和58年6月21日、夏子は、本件土地を含む全財産を第1審原告に包括遺贈する旨の公正証書遺言をした。
6 昭和59年4月10日ころ、本件土地敷地一杯に鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付4階建の本件建物が完成した(右建物の使用資材及び施工は中級(上)である。)。夏子は、本件建物の4階部分に入居し、第1審被告は、その余の階を第3者に賃貸した。第1審被告は、本件建物の建築資金等の融資を受けるため、本件土地及び本件建物を共同担保として、同59年8月10日、債権額を8000万円、債権者をダイヤモンド抵当証券とする抵当権を設定し、また、極度額を4000万円、根抵当権者を株式会社三菱銀行とする根抵当権を設定し、その旨の登記を了した。
第1審被告は、夏子に対し、右のとおり、賃料収入から30万円程度を渡すといった説明をしていたが、昭和62年2月ころまでは右の賃貸から得られる収入の月額が右の借入金の毎月の返済額に満たないなどとして、夏子に対し、なんら金員の支払をしなかった。
7 この間、夏子は、茶道等の教授による収入も減り、年金や貯金によってその生計を維持せざるを得なかったため、第1審被告が1か月30万円程度を支払う旨の約束を守らないことに不満を持つようになっていた。夏子は、昭和61年ころ、約3年の間、なんらの支払がないことに対する不満を述べたところ、本件建物の賃貸借契約が更新され、賃料が増額された昭和62年3月から平成元年8月までの間、第1審被告は、夏子に対し、毎月10万円を支払った。
8 第1審被告は、平成元年5月22日、いわゆるリクルート事件の収賄罪で起訴された。夏子は、かねて第1審被告に不満を募らせていた中、右事件に関する新聞報道に接して、同人から自分は騙されているのではないかとの危惧の念を抱くようになった。
このような中、平成元年5月24日、夏子は、被控訴人と養子縁組をした。
9 夏子は、平成元年6月8日、本件土地等を第1審被告に包括遺贈する旨の前記5の遺言を取り消し、本件土地を含む全財産を第1審原告に包括して相続させる旨の公正証書遺言をした。
夏子は、平成元年7月19日、第1審被告に対し、本件建物は同人の所有に属するとして、本件建物につき所有権移転登記を求める訴え(第一訴訟)を提起した。また、夏子は、平成6年2月25日、第1審被告に対し、生計維持費の支払を求める訴え(第二訴訟)を提起したが、同年4月22日に死亡した。
10 本件土地(地積221.52平方メートル)は、JR山手線及び総武線「代々木駅」の南方約100メートル、徒歩約1分強の所に位置している。近隣地域は、代々木駅の南方に所在する各種店舗及び事務所用のビルディングのほか、専門学校等も多く見られる繁華な地域である。本件土地付近は代々木駅に近接するほか、近時、都営大江戸線の代々木駅も開業し、交通道路条件も極めて良好である。
二 本件建物の敷地利用権の内容について
右認定の事実によれば、本件土地の利用につき、第1審被告は、弁護士から税金等の問題もあるので使用貸借の形にした方がよい旨助言されたため、形式上、夏子との間で昭和58年3月17日付けの使用貸借契約書(甲1)を作成したものである。第1審被告は、夏子から本件土地を本件建物の敷地として利用させてもらうことになったが、その代り、夏子に対し、本件建物の4階部分を無償で使用させ、また、生活費として月額30万円を支払うことを約束した。このような特殊な約束が交わされたのは、夏子と第1審被告が親子に準ずる特別に親密な関係にあったためである。しかし、平成6年4月22日、夏子が死亡して、第1審原告がその相続人となると、右のような特別に親密な関係がなくなった。こうして、第1審原告と第1審被告との関係はいわば他人同士の関係となったものである。したがって、第1審被告は、第1審原告から、夏子と第1審被告との間の従前の特殊な契約関係の改訂を求められれば、夏子の生存中のような特別扱いを求めることができなくなり、貸借条件が改訂されることを受け入れねばならなくなったものというべきである。そして、夏子と第1審被告との間の当初の合意の内容としても、夏子が死亡して、その地位を第1審被告以外の者が承継し、その者(本件では第1審原告)と第1審被告との間柄が親子に準ずる特別に親密な関係ではなくなったときは、他人間で土地を賃貸する場合と同様に、従前の特殊な契約関係を通常の貸借関係に改訂する旨の申入れをすることができ、この申入れがあれば貸借条件を通常の賃貸借並みのものに改訂する旨の黙示の合意があったものと認めるのが相当である。
そして、第1審原告は、平成10年2月末日までには、第1審被告との間の本件土地利用の対価を明確化するよう求めたものと解されるから、平成10年3月以降、本件土地の貸借条件は、他人間の通常の賃貸借と同様の条件に改訂されたものと認めるのが相当である。
三 生計維持に係る費用(毎月30万円)の支払義務について
右認定の事実関係によれば、本件土地の利用に関する夏子と第1審被告との間の契約は、両者の特別な関係に基づくもので、第1審被告は夏子に対し、月額30万円の金員を交付する義務を負担していたものと認められる。そして、夏子が死亡して、その地位を第1審原告が承継した後も、通常の賃貸条件に改訂された平成10年2月末日までは、右のような夏子との間の特別な関係が第1審原告に引き継がれていたものと認められる。そうすると、第1審被告は、第1審原告に対し、本件土地の貸借条件が通常の賃貸借並みとなるまでの間は、月額30万円の金員の支払義務があるものというべきである。したがって、第1審被告は、第1審原告に対し、夏子の死亡後の平成6年5月から平成10年2月までの間の46か月分合計1380万円を支払う義務があることになる。
四 固定資産税等の支払義務について
前記認定の事実関係によれば、本件土地は本件建物の敷地としてのみ利用されており、平成10年2月末日までは、従前の夏子と第1審被告との特殊な関係を基礎として成り立っており、そのため、第1審原告は、第1審被告に対し、通常の賃料請求もできないまま推移した。そうすると、平成10年2月までの本件土地の公租公課は、第1審被告がこれを負担すべきである。右のような事情によれば、第1審原告が本件建物の4階部分に居住していることを理由に、右の公租公課の一部を第1審原告が負担すべきであるということはできない。したがって、第1審被告は、第1審原告に対し、第1審原告が支出した平成8年度の公租公課104万1850円とこれに対する平成10年3月12日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金につき費用償還義務があることになる。また、平成10年度の公租公課等111万2300円のうち2か月分に相当する18万5383円とこれに対する平成10年3月12日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金についてもその費用償還義務がある。
しかし、第1審原告が当審において請求を拡張した平成10年度分のその余の分と平成11年度分の固定資産税等については、第1審被告に費用償還義務はないというべきである。
五 建物収去土地明渡等の請求について
前記のとおり、本件土地の利用関係は、当事者間の親密さのいかんにより使用貸借とされる時期もあったが、他人間の関係となれば賃貸借とされることが暗黙裡に合意されていたものと認められる。したがって、第1審原告の本訴請求中、本件土地の利用関係を使用貸借であるとし、その解除を理由とする建物収去土地明渡及び賃料相当損害金の支払を求める請求は、その前提を欠くものであって失当である。
六 平成10年3月以降の地代の額について
そして、第1審被告と第1審原告との間に賃貸条件についての合意は成立していないから、本件土地の地代の額は、結局、他人間で本件土地を賃貸するとすれば、どのような内容となるかという観点から、これを決定するほかないというべきである。その際、夏子の生存中に授受された生活費等は参考になるものではない。
そこで、本件土地の地代のいわば源泉となる本件建物の賃貸による収益について検討すると、証拠(乙13ないし23)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
1 現在、本件建物1階から3階部分(第1審被告が使用している部分を除く。)の月額賃料合計は175万4502円である。そして、第1審原告が無償で使用している本件建物4階部分の新規賃料は、月額31万5000円相当である。第1審被告が自ら使用している本件建物3階の一部の新規賃料は、月額8万円相当である。したがって、本件建物の収入の総額は、年額2579万4024円である。
2 これに対して、本件建物の経費年額は、左記のとおり合計385万8063円である。
記
減価償却費 172万5043円
固定資産税等 55万8000円
電気代 48万円
水道代 3万7200円
エレベーター保守料 58万0920円
補修費 36万円
植栽手入れ費 2万円
保険料 6万3300円
玄関マットリース 3万3600円
3 本件建物の右1の収入(年額)から右2の経費(年額)を差し引くと、本件建物の収益の額は年額2193万5961円となる。
地代とは、結局この建物賃貸による収益を、土地の賃貸人と賃借人に分配した場合に、土地の賃貸人に帰属する分である。この分配は、双方の協議により定めるのが望ましいのであるが、それができない場合は、やむをえず裁判所が双方の主張を勘案して、公平に分配するほかない。
収益は、土地と建物の双方が揃い、さらに建物賃貸という営業が加わって初めて挙げられる。したがって、公平に考えれば、土地への資本投下、建物への資本投下、そして建物賃貸という営業それぞれに収益を分配すべきもので、土地の資本投下のみ、あるいはことさらそれに厚く分配するのは、公平な分配ではない。
そこでまず、建物への資本投下の額とこれへの分配(配当)額について検討する。弁論の全趣旨によれば、本件建物の取得価格は1億1979万4669円と認められる。減価償却により年々償却されていくことを考慮すると、本件建物への平均投下資本額は右価格の2分の1の5989万7334円とみるべきである。本件建物の建築資金はほぼ全額借り入れによりまかなわれており、その借入金利は8パーセント台であった。この点を考慮して、投下資本に対する利廻としては年8パーセントを相当とする。そこで、右平均投資額の年8パーセントの分配(配当額)を求めると年間479万1786円となる。
そして、建物の賃貸営業は、建物の維持管理や、賃借人を探してこれから賃料を収受するという労務としての側面と、賃貸人が得られず空室となったり、あるいは賃料が低下するなどの損失の可能性、すなわち事業上のリスクを負担するという側面とがあり、賃貸の営業に対する報酬は、単なる労務の報酬ではない。このような事情を考慮すると、その報酬は、少なく見ても建物の平均投資額の4パーセント、年間239万5893円とするのが相当であろう。
そうすると、本件土地の賃借人に配分すべき額は、総額では年間718万7679円となるが、土地賃借人とすれば、これを下限として、賃貸人との交渉に臨み、妥協点を見つけようとするものと考えられる。
他方、土地賃貸人は、土地への投下資本に対する報酬を要求するであろう。
本件土地の現在の取引価額を算定すると、証拠(乙13)によれば、本件土地の価額は1億4181万7104円と認められる。これに対する利廻をどの程度と見るかは困難な問題だが、本件土地が極めて繁華な場所にある商業地であって、右の証拠によれば、バブル崩壊後の地価の下落割合は大幅であり、右の価額は、おおよそ収益還元価格に見合う水準にあるものと推認される。そこで、利廻は、5パーセントとして計算する。そうすると、年間709万0855円となる。
このようにして、総額2193万5961円の収益について、本件土地の賃貸人は709万0855円を超える配分を求め、本件土地の賃借人は718万7679円を超える配分を求めることとなる。中立の機関である裁判所としては、右の収益を前記の金額で按分して、賃貸人である第1審原告には1089万3605円を、賃借人である第1審被告にはその残りの1104万2356円をそれぞれ配分するのが相当であると判断する。
したがって、本件土地の地代の総額は年額1089万3605円(月額90万7800円。3.3平方メートル当たり月額1万3529円。公租公課の約10倍)となるから、第1審被告は、第1審原告に対し、平成10年3月1日以降毎月末日限り1か月90万7800円の割合による賃料の支払義務があることになる。
なお、右のように建物の収益を当事者双方に公平に配分するのであって、土地の賃借人は、土地の資産価値の配分を受けるのではないから、右のような賃料支払を前提とする限り、土地の賃借人に土地の資産価値の配分としての借地権が生じることはない。したがって、第1審被告は、右の賃料のほかに、第1審原告に対し、土地の賃貸借の権利金を支払うべきものでもない。
七 結論
以上のとおり、第1審原告の請求は、第1審被告に対し、右の生計維持に係る費用1380万円及び必要費償還請求に係る104万1850円の合計1484万1850円とこれに対する遅延損害金、附帯控訴による請求の拡張に係る平成10年度分のうち2か月分18万5383円とこれに対する平成12年2月15日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、また、平成10年3月1日以降毎月90万7800円の割合による賃料の支払を求める限度で理由がある。したがって、原判決は一部失当であるからこれを変更し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 淺生重機 裁判官 西島幸夫 原敏雄)